みなさんは『ネゴシエーション(交渉)』と聞くと、どんな想像をしますか?
どのような場面や状況で『ネゴシエーション』をおこないましたか?
私はこれまでネゴシエーションと聞くと、いかに自分に有利に話を進めるか、という『一方的な都合でおこなうもの』だと思っていました。
アメリカのビジネススクールでは、体系的に『ネゴシエーション(交渉術)』を学ぶ機会があります。私はMBAを通して、ネゴシエーションの本質とは『双方の利益を最大化すること』であると学びました。
今回は、仕事や日常の場でも活かせる『効果的なネゴシエーション(交渉術)』について書いてみようと思います。
これからMBA留学に来られる方、仕事で交渉する機会のある方は気分転換に読んで頂ければ幸いです。
ネゴシエーションは情報戦
交渉の基本というのは『情報戦』に近くて、いかに相手側から情報を集めるかで決まります。
そのためには、『話す』のではなく『聞く』スタンスが大切です。『相手側の情報を集める』ことで初めて、相手が関心を抱いていることを提案し、交渉を進めることができるようになります。
ネゴシエーションは準備が大切
冒頭でも述べましたが、ネゴシエーションの本質は『交渉に関わる双方の利益の最大化』です。
したがって『自分の都合』で交渉に臨むのではなく、『相手の利害』を分析することが重要になります。
相手と交渉するときには自分にとっての次善策、これをBATNAというのですが、これを準備しておくことが基本です。
BATNAとは?
BATNAとは、『次善策(Best Alternative To Negotiated Agreement)』のことです。つまり、『現在のネゴシエーションが成立しなかった場合、次に何をするか』ということです。
例えば、私が自分の車(カローラ)を知人に50万円で個人売買しようと考えているとします。仮に知人との交渉が成立しなかったら、確実に30万円で買ってくれるディーラーに売るでしょう。
この場合、私のBATNAは30万円になります。
相手のBATNAを考える
次に大切なのは、相手のBATNAも考えることです。多くのビジネスマンは自分のBATNAは考えますが、相手のBATNAを十分に分析しないまま交渉に臨んで失敗します。
上記の例で説明すると、知人が私との個人売買が不成立の場合どうするかを考えます。恐らくマーケットの中古車ディーラーで同じタイプの車を探すでしょう。カローラの市場価格が40万円だった場合、相手のBATNAは40万円になります。
交渉の成立しうる範囲を見積もる
自分と相手のBATNAを分析したら、交渉成立の範囲が見えてきます。
上記の車の個人売買の例で言うと、私は30万円より高く売りたいと思い、相手は40万円より安く買いたいと思います。
つまり、交渉の成立範囲は30万円~40万円と見積もることができます。
これが最も単純化したネゴシエーションの基本的な考え方になります。
質問することの効果
上記の例で分かるように、交渉におけるポイントは何かというと、相手のBATNAを分析するためには『相手側の情報』が必要です。車の例では、マーケットの市場価格を調べることが重要になります。
しかし実際のネゴシエーションでは多くの場合、相手側の情報は調べても見つからないことの方が多いです。(相手側しか知らない情報があまりにも多いため)この場合、ネゴシエーションを通して、相手側から情報を仕入れることが重要になります。
したがって、交渉のテーブルでは『話す』のではなく『聞く』スタンスが大切になります。
私のMBAネゴシエーションクラスでの実体験
ここではMBAでのネゴシエーションの授業を通して、私が実際に学んだ経験を紹介します。
アメリカでは交渉術を体系的に学ばせる
私は交渉というのは口八丁、手八丁の属人的なものだと思っていたのですが、システマチックな方針に沿って学ぶことができるものだということがよくわかりました。
私が受講したMBAの授業では、3日間ホテルに泊まり込み、みっちりネゴシエーションを学びます。まずは教授が交渉術とは何かということを教えてくれ、その後はひたすらロールプレイを繰り返しやります。
頭で理解したことを、すぐにロールプレイでクラスメイトと実践するので、非常に効率よく交渉術のノウハウを学ぶことができます。
私が授業でネゴシエーションをおこなったトピックは、
- ホテル客に高級葉巻を売る交渉術
- 映画の放映権を買いたいテレビ局と映画会社のネゴシエーション
- フランスの有名シャンパン会社と有名レストランの仕入れ交渉
- アメリカにおけるサラリー(給与)の交渉
- ファイナンシャルアドバイザーと顧客の契約交渉
- 相手が嘘をついていることが分かったときの交渉術
- 弱い立場から強い立場に影響を与える交渉術
- 3者以上の利害が関わるネゴシエーション
などなど、心理学や社会学、行動経済学の知見も交えて学ぶことができ、どれも興味深いものばかりでした。
ソフトスキルを身につけるには
ソフトスキル系の授業や講座ってなかなか身に着かないという印象をお持ちの方は多いと思います。
重要なのは、『考え方のパターンの練習を何度も繰り返す』ことです。つまり、交渉の考え方を1つ学ぶたびにロールプレイしてみる、日常でも使ってみることが重要です。
また、交渉ってうまく行ったかどうかがわかりにくいテーマですが、冒頭で説明したBATNAの考え方などを取り入れると、自分の交渉がうまくいったかどうかがある程度評価できます。
今回の記事の内容も、ぜひ仕事や日常の交渉で実践してみてください。
明日から使える効果的なネゴシエーション術
ここでは授業でも取り上げられた代表的な ”ネゴシエーション術” を3つ紹介します。
①Anchoring(アンカリング)
②コントラスト効果を利用する
③交渉に複数の論点を持ち込む
① Anchoring(アンカリング)
アンカリングとは、『人は金額なり条件なりを相手から先に提示されると、そこを基準に考えてしまう』というものです。
以下はある研究論文の例です。
不動産業者に住宅の売却価格を査定してもらう実験をしました。『住宅所有者の売却希望価格』だけ数字を変えて、複数の不動産業者に査定を依頼した結果、見事にこの『売却希望価格』に影響されて査定額が変わってしまいました。
このように、アンカリングは専門家でも影響を受けるほど非常に強力です。
交渉において、相手側のBATNAについての十分な情報を持っていると確信した場合、ファーストオファーをしてアンカリングすることが効果的になります。
ファーストオファーをするときのポイントは、アグレッシブに、かつ合理的に金額を提示することです。そうすることで次に紹介する『コントラスト効果』に繋げられます。
② コントラスト効果を利用する
氷で手を冷やした後、常温の水に触れるととても暖かく感じます。一方で、サウナに入った後の水風呂は氷のように冷たく感じますよね。
これが『コントラスト効果』です。
アンカリングによって十分ストレッチしたファーストオファーができていると、このコントラスト効果が効いてきます。
最初にオファーした金額から大きく譲歩しましょう。すると相手は、『あちらが大きく譲歩してくれたから、こっちも譲歩しよう』という感情がはたらきやすくなります。
これによって交渉が成立しやすくなるのです。
③ 交渉に複数の論点を持ち込む
このテクニックも非常に有効です。有名な例を紹介します。
卵が必要な人が2人いて、卵は1個しかなかったとします。卵だけに固執すると、交渉はいつまでも成立しません。一方で、『卵を何のために使うのか』という論点に注目すると、1人は卵の黄身の部分、もう1人は白身の部分が必要と分かり、無事に交渉が成立しました。
このテクニックは他の様々なネゴシエーションにも応用できます。
給与交渉であれば、『基本給』だけを論点にするのではなく、『ボーナス』『ストックオプション』『勤務地』『転居費用』など、さまざまな論点を同時に交渉するのです。
自分にとって大切な論点と、相手(会社側)にとって大切な論点が違えば、交渉は成立しやすくなります。
相手に重要な項目は譲歩する代わりに、自分に重要なことを譲ってもらえばよいのです。これを可能にするためにも、『聞く』スタンスが大切になります。
ぜひ仕事や日常生活でも参考にしてみてください。
効果的なネゴシエーション術まとめ
今回は日常生活でも活かすことができる『効果的なネゴシエーション』を紹介しました。
①Anchoring(アンカリング)
②コントラスト効果を利用する
③交渉に複数の論点を持ち込む
少しでもみなさんの参考になれば幸いです!
今回解説した内容を含め、ネゴシエーションの基本やコアとなる考え方がまとまった本があります。
Negotiation Geniusという本です。小さい本なので割とすぐに読めますので興味のある方はどうぞ。MBAを目指されている方は必読書です。入学前までに必ず読んでおきましょう。
日本語で読みたい方はこちらをどうぞ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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