起業家やスタートアップにおいて、『カスタマーリサーチ』は重要です。
新規顧客の開拓方法・戦略などについて書かれている本はたくさんありますが、『どのように』カスタマーリサーチすれば良いのか、について書かれている本はほとんどありません。
そこで今回は以下の悩みを持っている方向けの記事を書きました。
- 起業を考えているが、効果的なカスタマーリサーチの方法と手順を理解したい
- 起業アイデアを実行に移すため、カスタマーリサーチしたい
- 具体的なカスタマーリサーチの手順を知りたい
この記事を読めば、カスタマーリサーチの目的、方法、手順が理解でき、カスタマーインタビューまでのステップが明確になります。
なぜなら、以下の2点をもとに文章化しているからです。
- アメリカのDuke大学、UCSDのMBAで長年Eコマースを教えている人気教授が、実際に授業で用いた方法論を解説(海外MBAの必読書『Talking to Humans』がベース)
- 私自身がアメリカのMBA生とともに起業、カスタマーリサーチした実体験を記載
それでは早速はじめましょう!
起業家は『外へ出てカスタマーリサーチせよ!』 – Get out of the building!
起業家、スタートアップにとって最も重要なのが『顧客と話すこと』、つまりカスタマーリサーチですが、なぜ大切なのでしょうか?
【カスタマーリサーチはなぜ重要か?】
✅全てのビジネスアイデアは『たくさんの仮説』の上に成り立っている
✅ その検証するのに最も有効なのが『顧客と話すこと』
✅ 起業家はビジネスリスクを『見てみないふり』をしてしまう傾向がある
✅製品・サービス開発にコストをかける前に軌道修正できる— Yusaku@ UC San Diego - 【MBA流】Eコマースビジネスのノウハウ公開中 (@yusaku_nakamura) June 1, 2021
なぜカスタマーリサーチが重要か?
起業家に必要なのは『ビジョン』と『現実を見る力』のバランスです。世の中に新しいものを生み出すには、情熱と時代を読み解くビジョンが不可欠です。
一方で、カスタマーが解決したい問題をしっかりと直視し、人々が欲しがるモノやサービスを作るという『現実を見る力』も必要になります。そして、カスタマーが抱えている問題や悩みを知るには『顧客と話すこと』が最も効果的です。
リスクの高い仮説から検証する
全てのビジネスアイデアは『たくさんの仮説』の上に成り立っています。あなたが考える『カスタマーが抱えている悩み』も、仮説の1つです。そしてSteve Blankの言葉通り、最もリスクの高い仮説は、スタート直後から検証すべきです。
なぜなら、製品やサービスの開発に多くの資金を投資する前に、進んでいる方向が正しいのか、ピボットすべきなのかを知ることは重要だからです。
そのためにも、あなたの考えるビジネスにおいて『最もリスクの高い仮説』を認識し、ビジネスを立ち上げる初期から検証していきましょう。
(どうやってリスクの高い仮説を認識するかは後半で説明します。)
カスタマーリサーチの種類
カスタマーリサーチには、大きく分けると『定性リサーチ』と『定量リサーチ』の2種類があります。
定性リサーチからは『顧客が ”なぜ” この行動をしているのか』がわかります。
一方、定量リサーチからは『顧客が “何” をしているのか』がわかります。
定性リサーチ
『カスタマーと話す』ことが定性リサーチです。この記事では『定性リサーチ』の具体的な方法と手順にフォーカスします。
なぜなら、定性リサーチは多くの人にとって以下の2つの理由で難易度が高いからです。
① リサーチの過程で必要な『見知らぬ人と話すこと』には『こわい』という感情が働く
② 一般の人が『定性リサーチはこうすべきという直感』はほぼ間違っている
定量リサーチ
定量リサーチは、実験をおこなったり、Eコマースであればアナリティクスツール(例:Googleアナリティクス)などを用いて、数値データを分析します。
定期的にデータを集めることで、『顧客が何をしているのか』がわかりますが、定性リサーチのように『 ”なぜ” これをしているのか』、はわかりません。
ビジネスの最適化には『定性・定量リサーチ』両方が必要です。
カスタマーリサーチの目的は『売ること』ではなく『学ぶ』こと
カスタマーリサーチでやってはいけないことは、商品を『売ろうとする』ことです。
カスタマーリサーチの一番の目的はカスタマーから『学ぶこと』なので、以下のことに気をつけましょう。
- カスタマーにプロダクトデザインの方向性を尋ねない
- カスタマーにビジネスアイデアを売り込まない
- カスタマーに商品を売ろうとしない
カスタマーリサーチの目的は、自分の仮説が『正しいのか、間違っているのか』を判断する手がかりを見つけることです。
そのために、カスタマーから学ぶ姿勢を常に持ちましょう。
カスタマーリサーチの手順
ここからは具体的に定性リサーチの手順を解説していきます。
基本的なステップは、以下の6ステップになります。
① 『リスクの高い仮説』を理解する
② 誰から学ぶかを決める
③ 何を学ぶかを決める
④ インタビュー対象者を見つける
⑤ 効果的なインタビューをおこなう
⑥ 学んだことを統合する
順に解説します。
STEP1:リスクの高い仮説を理解する
ビジネスにおける『最もリスクの高い仮説』とは何でしょうか?
イメージしやすいように、実際のビジネスの例を使って説明します。
高級枕のオンライン販売ビジネスの例
ある研究者が、不眠症改善に効果のある、低コストの『人工羽毛の枕』を開発しました。彼はこれを『睡眠の質をテクノロジーで改善する』をコンセプトに、都会に住む若者向けにオンラインで販売しようとしています。
彼(研究者)のビジネスアイデアの場合、『リスクの高い仮説』は以下になるでしょう。
- 彼は、カスタマーは枕を選ぶ際に『睡眠の質』を重視すると考えている
- 彼は、オンラインで高級枕を直接カスタマーに販売できると考えている
- 彼は、ターゲットカスタマーは都会の若者と考えている
- 彼は、この高級人工羽毛の枕を、製造コストをカバーできる高価格で販売できると考えている
これらの『リスクの高い仮説』は、後ほどステップ3で紹介する質問に答えると見えてきます。
カスタマーリサーチのポイントはBuying, Observing, Talking
『リスクの高い仮説』を決めたら、実際にカスタマーリサーチをおこなっていきます。
具体的には、以下の3つをおこないましょう。
- Buying: カスタマーの立場に立って、製品を購入してみる
- Observing: カスタマーが商品を買う現場を観測してみる
- Talking: カスタマーと話してみる
Buying
ビジネスアイデアを実行に移す際に大切なのが、『カスタマーの立場に立つ』ということです。最も手っ取り早いのは、あなたが販売しようとしている製品、もしくはその競合製品を実際に購入してみることです。
製品を購入することで、カスタマーの立場に立って共感し、顧客理解を深めることができます。実際に購入プロセスを辿ることで意外な気づきもあるでしょう。
Observing
実際にお店やオンライン店舗でカスタマーの行動を眺めてみることも重要です。製品を購入するまでの意思決定プロセス(=顧客の正直な行動)を観察することができます。
Talking
最後にカスタマーと話すことで、『顧客の行動』と『内面のモチベーション』の両方を知ることができます。一方で、顧客の言葉を『言葉通り』に受け取り過ぎないように注意しましょう。
カスタマーインタビューの手順は以下に解説します。
STEP2:誰から学ぶかを決める
まずは誰に対してインタビューするかを決めます。重要なのは、インタビューする対象者はあなたのビジネスにおいて『ターゲットとなるカスタマー』にすることです。
あなたの考える典型的なカスタマー、アーリーアダプター、ビジネスパートナーなど、具体的なカスタマー1人を想像してみることが大切になります。
私の実体験
私のEコマースビジネスは、『旅の学びを最大化する』ためのポストカードの販売でした。
ポストカードを購入して頂いたお客さまは、旅行中に得た気づき・学びなどをポストカードに記入して、旅先で自分宛に送ります。旅行後、自分宛に『旅の学び・気づきが言語化された』ポストカードが届きます。部屋に飾ることで『学びを実践・継続するサポートに使ってもらう』というビジネスモデルです。
私の場合、ターゲットカスタマーは18歳~20代後半の旅行好きな若者と設定しました。
STEP3:何を学ぶかを決める
次に、 『最も重要であり、最もリスクのある』仮説を、インタビューを通して学ぶこと、つまり検証していくことが大切です。
最もリスクのある仮説は、以下の質問を考えると見えてきます:
- 私のビジネスのターゲットカスタマーは?
- 私のビジネスにおいて、顧客が解決したい課題・悩みは?
- 私のビジネスにおいて、顧客のニーズは何によって叶えられる?
- なぜ今日、顧客は上記の課題を解決できないのか?
- 私のビジネスにおいて、アーリーアダプターは?
これらを自問自答して、インタビューの前半で『最もリスクのある仮説』から優先して検証しましょう。
私の実体験
私のEコマースビジネスの場合、最もリスクのある仮説は以下でした。
人は旅するとき、『旅行から何を学んだか』が重要と考えている
つまり、カスタマーの『なぜ旅が好きか』を突き詰めることが、ビジネスの成功を左右する重要なファクターだったので、このあたりを中心にインタビューをしました。
STEP4:インタビュー対象者を見つける
インタビューする対象者を見つける際、ポイントは3つあります。
- 『最も親しい人たち(=両親・兄弟・親友など)』からは一つ距離を開ける
- クリエイティブに考える
- 自分のターゲットとする顧客がいる場所へいく(カンファレンス、ミートアップ等)
知らない人にインタビューをアプローチするのは気が引けるかもしれません。しかし、相手を尊重する気持ちを持って、礼儀正しくアプローチしてみましょう。
実際にやってみると、喜んで助けてくれる人が意外と多いことに気づき、驚くはずです。
私の実体験
私の場合、アーリーアダプターは『休暇がまとまって取りやすい大学生』と仮定していたので、OB訪問を受ける代わりにカスタマーインタビューに答えてもらい、Win-Win関係を作っていました。
STEP5:効果的なカスタマーインタビューをおこなう
カスタマーインタビューにおいて、最も好ましいのは直接会ってインタビューすることです。(なぜなら、ボディランゲージなど、視覚情報からも様々なことがわかるからです。)
なるべく1対1でおこなうことも心がけましょう。これは集団心理を避けるためと、1人だと話題を掘り下げやすいためです。
その他、重要なポイントは以下になりますので、参考にして下さい。
- インタビューガイドを作っておく
- インタビューは軽いアイスブレークから始める
- インタビューの始めのうちに、『最もリスクの高い仮説』に対する質問をする
- 彼らにストーリーを語ってもらう(自分が話すのではなく、聞くことにフォーカスする)
- 製品に対するフィードバックをもらうときは、インタビューとは分ける
STEP6:学んだことを統合する
最後に、カスタマーリサーチから学んだことをまとめます。
ポイントは、
- よいノートを取ることで振り返りができるようにする
- インタビュー結果をなるべく定量に落とす
- 結果からパターンを見つける
Observationやインタビューから学んだことを、『定量化できる指標』に変換することは重要です。私たちの脳は『自分が聞きたいように結果を解釈してしまう』というバイアスがかかりやすいので、これを避けるためにもなります。
例えば『30人インタビューしたうちの6割は、枕を選ぶ際に『睡眠の質』を重視すると答えた』などのように、インタビュー結果を定量化しましょう。
私の実体験
私はインタビューの結果を以下のように定量化しました。
- 旅行において、『学び・新しい気づき』を重視する人は全体の20%
- 旅行の経験を就活に活かせると答えた人は全体の80%
などのように結果を定量化して仮説を検証していきました。
おわりに
MBAの授業で実際に教えられるカスタマーリサーチの手順を解説してきました。
改めてステップをまとめると、以下の6つになります。
① 『リスクの高い仮説』を理解する
② 誰から学ぶかを決める
③ 何を学ぶかを決める
④ インタビュー対象者を見つける
⑤ 効果的なインタビューをおこなう
⑥ 学んだことを統合する
最後に『Talking to the Humans』の著者、Giff Constableの言葉をみなさんに贈ります。
リスクの検証はオフィスに閉じこもっていてはできません。勇気をもって外へ出て、カスタマーの声を聴きにいきましょう!『Get out of the building!』
当記事およびMBA授業のベースとなった、カスタマーリサーチに関する必読書がGiff Constable著の『Talking to Humans』です。興味を持たれた方は是非ご覧ください。
Talking to Humans: Success starts with understanding your customers |
カスタマーリサーチを完了された方は、次に『調達、フルフィルメント』、『プライシング』の理解も深めましょう!
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